コラム / 仕訳・決算の自動化

仕訳チェックを、AI で自動化する── ルールと AI の二段構えで、統制を保ったまま

2026 年 6 月 23 日

1. なぜ仕訳チェックは、属人的になりがちか

月次の仕訳を締める前に、誰かが一度、目を通す ── 多くの経理現場に、この「仕訳チェック」の工程があります。税区分は合っているか、勘定科目の使い方は妥当か、摘要は足りているか、二重計上はないか。地味ですが、決算の品質を最後に支えているのは、たいていこの一手間です。

ところが、この工程はほうっておくと属人化します。何を見るべきかが、特定の担当者の頭の中にしかないからです。「この取引先はいつも税区分を間違えやすい」「この科目に放り込まれていたら一度疑う」── そうした勘どころが、明文化されないまま個人に蓄積していく。その人が忙しい月はチェックが甘くなり、異動や退職で抜ければ、品質がそのまま落ちます。チェックの基準が人に貼り付いていて、組織の資産になっていない。これが、属人化の正体だと思います。

裏を返せば、仕訳チェックは「見るべき観点」を言葉にして外に出せれば、かなりの部分を仕組みに移せる領域です。そして近年、その「仕組みに移す」ための現実的な道具が揃ってきました。

2. 全部を AI に任せてはいけない ── ルール × AI の二段構え

生成 AI が使えるようになって、最初に思いつくのは「全部の仕訳を AI に読ませて、おかしいものを挙げてもらう」というやり方です。けれど、これは実務だとうまく回りません。全件を AI に投げると、遅く、コストがかさみ、そして誤検知が増えます。明らかに正常な大量の仕訳まで AI が逐一「判断」してしまうからです。

そこで効くのが、ルールと AI の二段構えです。

STEP 1
ルールで粗選別
明確な異常を機械的に弾く(速い・安い)
STEP 2
AI で精査
ルール化しにくい“なんか変”を判断
STEP 3
人が確認・承認
指摘を見て最終判断
STEP 4
証跡を残す
なぜ指摘したかを記録
仕訳チェックは「ルールで粗選別 → 引っかかったものを AI で精査」。安く速く弾き、判断の要るグレーに AI を集中させる(通過分も異常検知と抜き取りでカバー)。

考え方はこうです。まず、ルールで粗選別する。税区分の取り違え、未来日付、桁の異常、同額・同相手・近接日の重複疑い ── こうした「条件で書ける異常」は、機械的なルールで速く・安く弾けます。そのうえで、ルールに引っかかったものや、ルールでは判断しきれない“なんか変”を、二段目の AI に精査させる。摘要の文脈、取引の妥当性といった、ルールで書ききれないグレーな判断こそ、AI の出番です。

順序が大事です。一次は安く速く、二次のエスカレーションで高精度に。こうすると、コストは全件 AI よりはるかに軽くなり、誤検知も減り、AI の判断力を本当に必要なところに集中させられます。「全部 AI」でも「全部ルール」でもなく、安い網で粗く取り、高い網で深く取る。この設計が、仕訳チェック自動化の背骨になります。

ひとつ補っておくと、「ルールを通過した仕訳は、もう AI が見ない」というわけではありません。二段構えは、あくまで“コストと注意をどう配分するか”の設計です。ルールを通過したものも、次節で述べる「正常からの逸脱」という形で AI の異常検知の網にはかかります。さらに、ルールが合格と判定した中から一部を無作為に抽出し、AI や人が裏取りして、ルール判定そのものの妥当性を確かめます。“安いルールで全件を粗く見て、高い AI を要所に厚く配る”── そう重ねていくものだと捉えるのが正確です。

3. 何を見るのか ── チェックの観点

二段構えの土台になるのが、「何を異常とみなすか」という観点の整理です。実務で効くものを挙げると、だいたい次のようなところに集約されます。

税区分の誤り。 標準・軽減・不課税の取り違えは、消費税計算に直結します。適格請求書(インボイス)の要件や仕入税額控除の可否も、ここに含めて見ます。

摘要の不備。 たとえば交際費の参加者記載漏れのように、税務上「書いておかないと困る」情報が落ちていないか。

重複計上の疑い。 同額・同じ相手・近接した日付の組み合わせは、二重計上のサインになりやすい。

勘定科目の誤用。 判断に迷った費用が「雑費」へ安易に集約されていないか。中身を見れば、本来あるべき科目が見えてきます。

日付・金額の異常。 未来日付、期ずれ、計上遅れ。桁・符号の誤り、例月から大きくずれた金額。

いずれも、個々の仕訳そのものの属性を見る観点です。仮払金・仮受金の滞留のような「残高の動き」を見るチェックは、性質の違う残高分析の話で、ここでは扱いません。

これらのうち、条件で明確に書けるものは一次のルールへ、文脈の判断が要るものは二次の AI へ ── と振り分けていくと、二段構えが自然に設計できます。

4. 「正常を定義して、異常を浮かせる」

観点を並べると、つい「異常のパターンを全部数え上げる」発想になりがちです。けれど、異常は無限に多様で、先回りして列挙しきることはできません。

そこで有効なのが、発想を反転させて、“通常”を定義し、そこから外れたものを浮かせるやり方です。過去の仕訳から、この取引先・この科目では金額や税区分がだいたいこの範囲に収まる、という「通常パターン」を捉えておく。そして、そこから外れたものを例月比較や外れ値として検知します。

ルールで書ける明確な異常と、ルール化しにくい“なんか変”── 前者はルールで、後者は「正常からの逸脱」と AI の判断で拾う。この合わせ技にすると、想定外の異常にも網がかかるようになります。

5. 統制下で使う ── 指摘して終わりにしない

ここが、会計士が関わるいちばんの勘所です。AI やルールが出した判定を、そのまま帳簿に確定させない。 あくまで「指摘」として出し、人が確認・承認してから反映する。この線引きを崩さないことが、自動化を安全に保つ条件です。

そのうえで、証跡を残すことを設計に組み込みます。何を、なぜ指摘したのか。誰が確認し、承認したのか。これらをログとして残しておけば、後から「なぜこの数字なのか」を追えます。監査や税務調査、経営への説明で根拠を問われても、きちんと答えられる。これは IPO 準備や内部統制対応の文脈ともそのままつながります。(同じ「人が確認・承認し、根拠を残す」という考え方を、原価計算のシステム化について書いたコラムでも触れています。)

目指すのは「全自動」ではなく、「人が最終判断する半自動」です。機械が候補を挙げ、人が判断し、その判断の根拠が残る。この線引きを設計できることこそ、会計を理解した人間が関わる価値だと考えています。

6. 現場で育てる ── 経理が自分でルールを足せる

仕組みは、作って終わりにすると使われなくなります。定着させるには、いくつかの工夫が要ります。

いちばん効くのは、経理担当者自身が、コードを書かずにルールを足せる設計にすることです。「この取引先のこの科目は毎回見たい」と気づいた人が、その場でルールを一つ追加できる。こうすると、チェックの基準が個人の頭から仕組みの側へ移り、属人化がほどけていきます。現場で運用しながら、仕組み自体が育っていく状態をつくれます。

もう一つ気をつけたいのが、誤検知です。指摘が多すぎると「オオカミ少年」化して、やがて誰も見なくなります。だからこそ、ルールで粗選別して件数を絞り、重要度にメリハリをつけ、指摘の出し方そのものを工夫する。通知を日常使っているチャットなどに流すと、運用に乗りやすくなります。

つまり、自動化の成否を分けるのは、検知ロジックの精度だけではありません。誤検知を抑える設計、ルールを育てる仕組み、レビューの型まで含めて運用に落とせるか── ここまで設計して、はじめて現場で生き続けるものになります。

7. チェックと生成は、地続き

ここまでを「仕訳チェック」として書いてきましたが、同じ仕組みは、仕訳を「生成」する側にもそのまま当てはまります。両者が必要とする知識 ── この会社では、この取引はどの科目・どの税区分で、摘要に何を書くのが正しいか、何を“正常”とみなすか ── は、まったく同じものだからです。その知識を前向きに使えば仕訳を“作る”、後ろ向きに使えば仕訳を“確かめる”。生成とチェックは、同じ一つの知識の、向きが違うだけの応用なのです。

では、どちらが先か。論理的には、「正しい仕訳の定義」を握る生成のほうが主だとも言えます。チェックは、正解があって初めて成り立つ営みだからです。けれど実務の入口としては、チェックが先だと考えています。チェックは既存の起票フローの上に後付けでき、帳簿を直接書き換えない ── つまり統制に乗せやすい。そして何より、チェックを回すほど「正常とは何か」というルールと判断が貯まっていきます。その貯まった知識こそが、次に仕訳を生成するための土台になります。

そして、生成が入っても、チェックは消えません。AI が作った仕訳もまた、人が確認・承認し、根拠を残す ── 本稿の二段構えと統制が、今度は“生成に対する統制”として効いてきます。チェックで正常を定義し、その知識で生成し、生成物をまたチェックする。鶏が先か卵が先かというより、回すほど精度が上がっていく螺旋だと捉えるのが、いちばん正確なのだと思います。

8. おわりに

仕訳チェックの自動化は、ルール × AI の二段構え × 統制(確認・承認・証跡)に集約できます。安い網で粗く取り、高い網で深く取り、最後は人が判断してその根拠を残す。属人化していた「見るべき観点」を仕組みの側へ移し、現場で育てられる形にする。

どの観点をルールに落とし、どこから AI に委ね、どこを人が握るか ── その線引きは、いまの仕訳チェックの実務を一度棚卸ししてみると見えてきます。本稿が、その入口になれば幸いです。

伊澤剛志公認会計士事務所
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