個別原価計算を、Excel からシステムへ── 生成 AI が変えた「自分で作る」という選択肢
1. なぜ Excel の個別原価計算は、いつか限界が来るのか
プロジェクトごとの採算を把握するために、個別原価計算を Excel で回している ── そんな会社は少なくありません。立ち上げの時期には、それがいちばん身軽で合理的なやり方です。けれど事業が伸びていくと、いくつかの形で限界が見えてきます。
まず、月別のシートがどんどん増えて、属人化していきます。毎月シートを複製し、関数やマクロが積み重なって、いつのまにか「作った本人にしか触れない」状態になります。次に、配賦のロジックが複雑になります。工数の按分、共通費の配賦、部門間の振替が絡み合い、「なぜこの数字になるのか」を後から確かめるのが難しくなっていきます。さらに、計算した原価を会計ソフトへ手で転記する二重入力が、ミスや差異の温床になります。そして、プロジェクト別・期間別に深掘りした分析も、シートの集計では頭打ちになります。
これは「Excel が悪い」という話ではありません。計算の複雑さと、検証のしやすさ・他システムとの連携が、表計算の前提を超えてしまった ── そういう構造的な問題なのだと思います。
2. 生成 AI で、「作り方」そのものが変わりました
原価計算のパッケージや SaaS は、以前からあります。ただ、多くの会社で「自社の原価計算」にうまくハマらないのが悩みどころでした。配賦の考え方も、部門やプロジェクトの持ち方も会社ごとに違うので、既製品に業務を乗せきれないのです。結局、パッケージの前後で Excel が必要になって手作業が増えたり、そもそもハマらずに「自分たちで Excel で作る」ことになって属人化したり、ということが起きがちでした。
ここ数年でいちばん大きく変わったのは、Claude Code のような生成 AI によって、自社に合った原価計算の仕組みを、自分たちで作れるようになったことです。既製品に業務を無理やり合わせるのでも、Excel で力技を続けるのでもなく、自社の業務にフィットした「動くもの」を、現実的なコストと期間で組める。会計の分かる人が、自分の手でそこまで届くようになった ── これが本質的な変化だと感じています。
変わったのは「作る速さ・安さ」だけではありません。仕組みの中に生成 AI を組み込めば、これまで人手に頼っていた確認作業も任せられます。たとえば「今月の原価を計算して」と対話しながら結果の妥当性を点検する、勘定科目・部門・プロジェクトの紐付け漏れを自動で見つける、例月と大きくずれた配賦や原価を洗い出す ── といったことです。
3. ただし、「確認」と「記録」は仕組みに組み込む
ここでいちばん大事なのは、AI が出した数字を、そのまま帳簿に入れないことです。具体的には、二つの仕組みを設計に組み込みます。
一つは、計算結果は人が確認・承認してから反映すること。AI に勝手に確定させず、必ず人のチェックを通します。こうすれば、誤りや不正をその場で止められます。もう一つは、「なぜこの数字になったのか」を後から追えるよう記録を残すこと。計算の根拠、AI の提案、誰が承認したかをログに残しておきます。監査や税務調査、経営への説明で「この数字の根拠は?」と聞かれても、きちんと答えられます。
この「確認」と「記録」まで含めて設計できるかどうかが、生成 AI を使った仕組みの成否を分けます。AI に判断を委ねきるのではなく、人がコントロールしながら使う ── 会計の分かる人間が関わる意味は、まさにここにあると思っています。(同じ考え方を内部統制の文脈で書いたコラムもあります。)
4. システム化で押さえたい設計のポイント
実装で押さえておきたい勘所は、だいたい次の五つに整理できます。
① 原価の抽出・費目の分類設計。 配賦の前に、そもそもどの費用を、どう分類して拾うかを決める必要があります。ここが曖昧だと、後の配賦をどれだけ精緻にしても、結果は信頼できません。会計データから機械的に抽出する部分は自動化できますが、「何を原価とみなし、どう分類するか」は、会計のルール設計そのものです。
② 配賦設計。 抽出・分類した費用を各プロジェクトへ割り当てる、個別原価計算の心臓部です。労務費の工数按分や、共通費の配賦基準(人数・面積・売上など)をどう決めるかで、出てくる採算が変わります。基準は「現場が納得でき、毎月同じルールで再現できる」ことが大切です。
③ プロジェクト別損益の見える化。 売上・原価・粗利を、プロジェクト単位で、単月と累計の両方で見られるようにします。ここが経営の判断に直結します。
④ 仕掛品(WIP)の管理。 期をまたぐ案件や進行基準が絡む場合は、仕掛品の計上・振替を仕組みとして持っておく必要があります。Excel でいちばん事故が起きやすいところです。
⑤ 会計システムへの仕訳連携。 配賦の結果を仕訳として自動生成し、会計システムへ渡すことで、二重入力と転記ミスをなくします。「計算して終わり」にせず、会計帳簿まで一気通貫にするのが、システム化の本当の狙いです。
5. 失敗しない「移行」の進め方
システム化でいちばん多い失敗は、移行のときの混乱です。コツは、いまの Excel/GAS をいきなり捨てないことに尽きます。
まず新しい仕組みと現行を並走させて、同じ月を両方で計算します。その結果を階層別(合計・部門別・プロジェクト別)で照らし合わせ、差異の原因を一つずつ潰していきます。そして差異が許容範囲に収まったのを確認してから、一斉に切り替える。この「並走照合 → 一斉切替」を踏むと、本番を止めず、数字も壊さずに移行できます。私自身、会計システムの移行では、このやり方を採ってきました。
6. どこから始めるか
すべてを一度に作り替える必要はありません。効果が大きくて着手しやすい一箇所 ── たとえば配賦計算の自動化や、仕訳連携 ── から始めて、確かめながら広げていくのが現実的です。マスタの照合や、異常値の検知、対話的な計算の確認などに生成 AI を組み合わせる余地も、年々広がっています。
7. おわりに
個別原価計算のシステム化は、配賦設計 × 会計システム連携 × 安全な移行の三つに集約できます。そして近年の変化の核心は、これらを、会計を理解した当事者が、自分の手で現実的に組めるようになったことにあります。どこから手を付けると効くかは、いまの業務を一度棚卸ししてみると見えてきます。本稿が、その入口になれば幸いです。
記事の内容に近い課題をお持ちでしたら、初回のご相談(オンライン 60 分程度・無料)で現状の業務をお聞きし、AI 活用の可能性と着手の順序を、実務に即して整理してお返しします。
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